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第64回:SFCレポート例:2-2
(前回の続きです)
ただし、もちろんマスコミのみにすべてを期待するわけではない。過度の期待は好ましくない。国民にも果たすべき役割が当然あろう。国民は、「ゆとり教育」の成果が、数値や教育を受ける側の児童、生徒の経験知として現れてくるのは、ほんの数年後ではないということを「知る」必要がある。なぜなら、マスコミにとっても言えることであるが、中長期的なスパンでこの教育問題に対峙しなければ、ゆとり教育の成果など図れるものではないからだ。また、障害者自立支援法や介護保険法の成立時に掲げられた「走りながら考える」という理念は、「ゆとり教育」制度にも共通するのではないだろうか。適宜問題点を指摘し、改善を加えながら積み上げて政策を「完成」に近づけていくという一連のプロセスを政府はとっている。にも拘わらず、国民はその事実を知らない。それが如実に現れたのが、「ゆとり教育」という「名前」の独り歩きだろう。「ゆとり」という言葉の認識を巡って、政府と国民間の見解が必ずしも一致しない。
そしてもう一点、「国民」について述べたい。現在、教育内容を決定する権利である教育権の所在を巡っては大きく分けて2つの意見がある。国民の信託を受けている国家こそ教育制度の舵取りを行うべきという説と、子どもの教育に責任を持つ親権者、あるいは親権者から負託を受ける教員にその権利があるという説である。ここでは教育制度を作成する側と享受する側しか登場しない。そもそも立場は違う両者であるが、同じ日本に生きる者である。現在、教育をつくる側として政策形成に直接的に関わるトップも、自治体職員も、その他の「大人」も、遡れば教育を受ける側であったはずだ。ゆとり教育というものは今日突如として現れたものではなく、彼らが受けてきた過去の教育の延長上にあるものである。そういった意識を踏まえながら、政策に携わる者もそうではない者も、他人事ではなく主体性を持って「ゆとり教育」について述べる必要性を感じる。そしてそれは、他でもない、「子どもたち」のことを第一に考えた議論であるべきであり、あってほしい。更に言えば、これは「ゆとり教育」にのみ当てはまることではなかろう。世代、状況に如何なく諸問題に関心を持ち思考することが、政策をつくる上での「世論」として、大きな意味を持つものであると私は考える。
同時に、教育を受ける側の「国民」も、マスコミから与えられた情報を自身の体験やその他からの情報収集とすり合わせて、自身で「思考する」ことを忘れてはならない。そうした上で、積極的に意見を発信することが政策決定においてメリットになることは想像に難くない。ゆとり教育に関して言えば、養育者ならば、学校と相互の情報・意見交換の場で発信する。教育現場に携わる者なら、学校という場だけでなく、市民の自発的な集まりにおいて現状把握し、発信する。ここで、以上のような「場」、「手段」としてNPOのような自主的な団体の存在意義が問われてくるだろう。
政策決定過程において、専門家の集団のみによる議論では、たとえ高度でアカデミックな内容が見込まれても、偏狭的な議論に終始してしまう危険性がないとは言い難い。そこに良い意味での「素人」として新しい風を吹き込む―「行政の補完的役割」こそNPO等の自発的な団体が果たすべき役割だと考える。これは自身の推測にすぎないが、実際に、国民、市民のレベルで展開されるゆとり教育に関する活動は、数多いのではないだろうか。なぜなら、教育をメインとするNPOも数多く存在し、当然その場では、ゆとり教育は主要テーマとして扱われるだろうからである。
それにも拘らず、NPO等を通じて、なぜ行政(国、自治体)に「国民」の声はあまり浸透しないのか(もしくは、なぜそのように見受けられるのか)。そこには、まだまだNPO等自体の議論がその組織内で自己完結しがちであることも少なくなく、行政側には、外部組織に対して閉鎖的な風潮が残っている場合が存在するという要因が推測できる。(もちろん連携ができている例もあるということは承知である。)
ここでこそ、トップ(首相・知事・市長など)の力、才能、役割が発揮される、あるいは試される時である。政策決定過程において、トップがどの程度意欲的に取り組み、先導的に行動するかが、政策の内容に影響を及ぼすのではないか。例えば、成果の是非はともかくとして、前首相の安倍晋三氏は任期中に教育再生会議を設置し、ゆとり教育見直しの具体案の検討を進めた。この「行動」は教育行政に携わる官僚や自治体職員に対し、「教育」への更なる取り組みを強調・喚起すると同時に、国民に対しても、その関心を促したという点においては効果があったのではないだろうか。要するに、トップの姿勢は、精神的にも、物質的にも、プラスにも、マイナスにもトップ以下の者に対して影響を与えるということだ。国家の在り方も、自治体の在り方も、最終的には各々のトップに左右され、政策決定においても、同様のことが言えると考える。ただし、民主主義政治を遂行する日本において、完全にトップの意向が反映されるという意味ではもちろんない。トップによる、政策決定に携わる者に対する(官僚から国民に至るまで)「巧い」環境づくりが、各々へ刺激を与え、緻密、かつ画期的な発案を促す契機となり得るということを意味する。
以上に、中央教育審議会やマスコミ、国民、NPO等の自発的な組織、そして最後にトップの果たす役割や問題点について述べた。国や地方自治体の政策ができるにあたって、各々に留意すべき事柄があり、果たすべき役割も多々ある。特筆すべきは、それらは独立して果たされるものではなく、相互に複合的に絡み合っている関係であるからこそ、「共に」役割を果たしていくことが重要ではないか、ということである。問題点も山積であろうが、双方の「連携」によって、政策決定に「国民」の意思がより反映され、現実味を帯びた政策づくりへの可能性が増していくと私は考える。
以上、浅野史郎教授「政策法務論」のレポートでした。たいていの授業が、最終レポートもこのくらいの分量ですので、授業自体はそれほどの負担ではないと思います。ただ、SFCは授業ではなく研究会を中心として動いている場であり、研究会での論文や、その他作品提出の際は、多くの時間を要するものが求められます。ただ、あくまで自分の好きなことをすればいいので、それほどそれも負担ではないかもしれません。
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