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第45回:父の背中

 先日父親がアメリカはノースカロライナに旅立った。いわゆる単身赴任というやつだ。ちなみに赴任期間は決まっていない。過去に転勤になった、エジプトとドイツには、自分も含め家族四人で暮らしていたため、正式な単身赴任は初めての経験となる。今回の赴任の話は10月に急に知らせがあった。これまで一度も家で弱音を吐いたことのない父親の顔に、不安の色を感じたのを覚えている。

 いつも仕事を終えて帰ってくるのは2時とか3時。俺が顔を会わせるのはそのときだけ。俺は朝が苦手だ。昔から。だから普段父が家にいるということはないのだけど、やはり、家族が一人いなくなるのは寂しいもんだと今ひしひしと感じている。

 何か、気配がしない。家に、横浜に、関東に、日本に、父親の気配がしない。物音はしなくても、そこにいるということが空気で分かる。家族ってそういうもんだと思う。基本自分は、頭の中が自分のやるべきことでいっぱいで、家のことは何一つやってこなかったから、これからは、長男として家族を俺が守らなきゃいけない。出発前日の晩、父親と二人で旅立つ前の杯を交わした。仕事から帰宅した父親に、「酒、呑まないか?」と誘われた。普段あまり面と向かって話をしないので、そう誘われるとなんか照れくさかった。そして父親は言った「母さんを頼む」。その言葉を聞いて、改めて、父親は父親なんだと、母親は母親なんだと、妹は妹なんだと、家族は家族なんだと理解した。

 初詣では、内定よりも父親の健康を願おう。

慶應義塾大学 環境情報学部  中川 諒

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