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第2回:ムワンザホテルの夜 前編

 マラウイへ来て一週間がすぎた。フィールドワークの申請書を作成するために研究計画書を書いている最中も、そして実際にマラウイに赴任してからも、実際に私自身、「何を知りたいのか」が曖昧になっていた。

 こちらに来てからは、何かをしなければという焦りが加わり、気がつくと研究目的が、「研究テーマを探すこと」にすり替わっていた。学部の2年生だから、大目に見てね、と甘えてみても、やはり助成金を得、マラウイでもたくさんの人の支えを受けている以上、ある程度まとまった「結果」を出さなければならない。そう思った私は、とりあえず、旅に出ることにした。『犬も歩けば研究テーマにあたる』、どこかの大学の先生がそんなことを言っていたような気がする。

 手始めに、首都から車でわずか40分あまりの村を訪問する。続いて、7時間にもわたる長距離バスによる移動を強いられたカタベイという町への訪問。この旅では、道中、急激な腹痛に襲われ、誰も降りないような村の集落で「ここで降ろしてー!!」と喚き、タバコ農家の庭先にある、穴を掘っただけのトイレに駆け込み、事なきを得る、という珍事に見舞われるも、無事に帰還。そして、今、3つ目の訪問地であるムワンザに来ている。

 私の研究対象である「一村一品運動」というのは、1979年に大分県知事に就任した平松守彦氏が、地域の顔、地域の誇りとなるものを掘り起こし、あるいは作り出して、磨きをかけ、全国や世界に通用するものに育てていこうとする地域活性化のための運動である。それがマラウイに伝わり、今ではマラウイ政府が主導して、One Village One Product(OVOP)としてマラウイ国内でひろく知られている。

 OVOPプログラムで強調されているのは、自分たちの地域でとれるものに対して、加工して付加価値をつける、というものである。さらにOVOPではグループによる活動に対してプロジェクトの立ち上げやビジネス研修等多岐にわたるサポートをしているのである。

 ムワンザという町は、マラウイで一番の柑橘系作物の産地である。みかんやオレンジといったものが、シーズンになるとたくさん収穫されることで有名だ。マラウイの愛媛といったところだろうか。私が訪れたグループは、そのみかんやオレンジをジュースに加工するという、まさにOVOPのコンセプトに適ったグループである。

 約1時間半におよぶインタビューで、このグループが多少の問題を抱えつつも、広報を得意とするかなり意欲的なグループだとわかり、満足してその夜の寝床となるムワンザホテルに向かった。このホテルは、ムワンザで一番の「高級」ホテルであり、1泊3000クワチャ(約2000円)程。

 さっそく部屋に案内してもらうと、そこには丁寧にベッドメイクされたダブルベッドと、テレビがついている。私は、満足して支払を済ませた。(寝転がる前に、さっそくシャワーを浴びよう。)アフリカで旅をする場合には、必ずホットシャワーが使えるかどうかの確認をする。ムワンザホテルの場合、YESだった。40度を超える地域ではどうかわからないが、水シャワーでは心もとない。そもそも私はバックパッカー向きではないので、部屋にホットシャワーとトイレがついていることは最低条件だ。汗をたっぷり含んだ服を脱ぎ、勢いよく蛇口をひねる。

 「・・・え?」

 なんと、糸のような水しか出ない。服を脱ぐ前に、早くも洗顔を終えて顔中泡だらけの私は必要以上にバタバタして、とりあえず「ちくしょー」などと言ってみる。

 先に確認すればよかったのだが、というよりもスタッフが教えてくれてもよさそうなものだが、ムワンザは断水中だった。

 私は、糸のような水でかろうじて顔中の泡を洗い流すと、とりあえず、という感じで抗議の体制に入る。もちろん、着衣した後、である。こういうことでいちいち腹を立てていては、ここで生活などできない。ただ、伝えるべきは伝えるという気持ちと、どちらかと言うと、「シャワー浴びようと思って、すっかり裸になっちゃったけど、水が出なくてさ~」という〈笑い話〉を共有するという目的も兼ねての抗議である。「Excuse me・・・・と、こういうわけだったのさ。」と私が話を終えると、スタッフの女性が大したことじゃない、というような表情をして、思いがけない提案をよこした。「OK、バケツにお湯をつくるから待っていて。」15分後、私の部屋には、大きな大きな樽のようなバケツの中に、たっぷりのお湯が届けられた。私は、ぎこちなくそのお湯を使って、身を清めたのだった。マラウイの高級ホテルならではのサービスではないだろうか。

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